2022.04.02掲載
ここのお菓子を食べるといつも、口の中に〈季節〉が広がっていくような感覚になる。初夏を思わせる甘酸っぱさや、秋が深まっていくようなぽってりとした甘さなど、味覚からその季節のイメージが湧いてくるようだ。共楽堂のお菓子はそういうお菓子なのだ。
社長の芝伐敏宏さんの祖父、久義氏が昭和8年、三原に創業した共楽堂は、現在、広島はもとより関東や関西の百貨店にも店を構える三原の老舗の一つだ。
生まれた頃から生活の中に菓子作りがあった芝伐さん、その道に進んだのは自然な流れだった。大学在学中から学びを始め、卒業後、製菓の専門学校へ。さらに経験を積みたいと単身フランスに渡り、修業を経て帰郷した。
そして祖父から店を引き継ぐことに。しかし、当初の経営状況は決して順調とは言えず、菓子作りをしながら経営していくことの難しさを痛感した。
店を継いでからの数年間は、毎週新作のケーキを販売したり、和菓子を作ってみたりと試行錯誤の日々が続いた。それは、菓子職人としてのセンスや力量など、自らと向き合う日々でもあった。
「自分はゼロから何かを作れる人間じゃないと気付いたんです。ある日突然ラジオを発明するような人にはなれないと。ただ、ラジオとCDとカセットがあれば、CDラジカセは作れると思ったんです。」
そこで芝伐さんがたどり着いたのが、組み合わせやマリアージュにより美味しさを作り出すというよりは、素材の良さをできるだけそのまま活かして伝える〈素材ガツン!〉というアイデアだった。
祖父が作った〈やっさ祭り〉というお菓子。まさに芝伐さんが目指す〈素材ガツン!〉のお菓子だった。旬のマスカットをまるごと求肥で包み込んだもので、噛んだ瞬間に素材の爽やかさと優しい甘みが口いっぱいに広がる。これを地元だけではなく、より多くの方に楽しんでもらいたいと〈ひとつぶのマスカット〉に改名。現在のブランド名の一部である〈旬果瞬菓〉のスタートとなった。
そして会社の起死回生を図るべく、〈ひとつぶのマスカット〉を携え東京の百貨店に飛び込みの営業をスタート。とにかく、行動あるのみと自ら門を叩いた。すると、ある百貨店で催事を行えることになり、それが関東での販売の足がかりに。素材の良さがありのままに伝わる、それまでにありそうでなかった美味しさが評判を呼び、その後は東京の百貨店へ常設店として出店、全国各地で催事を開催するまでになった。
共楽堂のお菓子には、全国各地の旬の果物や野菜などの素材が使われている。〈ひとつぶのマスカット〉には岡山県産のアレキサンドリア、〈ほくほ栗〉には愛媛県産の栗、〈柿中柚香〉には和歌山県産平種無柿のあんぽ柿、〈ひとつぶの乙女の涙〉には高知県産のトマト。芝伐さん自らが全国の農家を巡って見付けてきたものだ。
これらの栽培は、当然、収穫の量や時期などが天候によって大きく左右される。それがお菓子づくりにも大きく影響する。農家さんと打ち合わせを重ねたとしても、商品になるまでにはいくつものハードルがあるのだ。
「旬の果物や野菜を使うことには難しいことも多いんです。なかには、天候のために思うような果物ができず、予定していたお菓子が全く作れないこともあります。でも、納得できる素材だけを使う。それが〈旬果瞬菓〉のこだわりなんです。」
あくまでも、売り手の都合ではなく、素材に寄り添ったお菓子作りを貫いている。
生まれ育ったまち、三原。掘り起こせばまだまだ多くの魅力があるはず、芝伐さんはそう感じている。
「共楽堂のお菓子がその魅力の一つとして、全国の人が三原へ足を運ぶきっかけになれば、こんなに嬉しいことはないです。」
そのために、これからも広島や瀬戸内はもちろん、全国各地の素材で美味しいお菓子を作りたいと思っている。お菓子は人々に喜びと幸せを届けることができる。芝伐さんは、そんなお菓子が持つ力を信じている。
有限会社 共楽堂
芝伐敏宏(しばきりとしひろ)
三原市港町1丁目7-27(本店)
TEL.0848-62-4097(本店)
OPEN:9:00-15:30(本店)
定休日:木・日曜日(本店)
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